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学術分野の比較大調査 [詳細]

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このページは「学術分野ごとの文化比較大調査」の詳細解説ページです。(2015/06/25 マイナー更新) *新規登録すれば結果が閲覧できます

概 要

学術分野間の相互理解促進を目的とし、各分野の価値観(研究感、世界観、評価基準など)、および行動特性(研究スタイル、研究コミュニティ活動など)を各分野ごとに調査し比較します。調査結果は、分析結果とともに公開とし、WEB掲載の他、冊子作成やシンポジウム開催等を行います。

意 義

昨今、「異分野融合」が叫ばれて久しいが、その具体的な内容も手法も、そして実は目的すらも真剣に考えることなく、盲目的に「異分野融合は善」としている場合が多いと言えないでしょうか。そこで、「異分野融合」そのものの理解について、実践活動も踏まえながら書籍「異分野融合、実践と思想のあいだ。」にてまとめました。そこでは、異分野融合において決定的に大事なのは「学者としての構え」であると言い切ってはいますが、せめてその異分野融合の知識的基盤として何かしらのガイドのようなものがあってよいのでは?と考え、本調査を実施するにいたりました。

いってみれば、「学術分野を対象とした文化人類学」のようなもの。

例えば、本調査の試行として2012年に京都大学内で実施したアンケート結果によると(京都大学における分野横断を目的とした学内一斉アンケート調査:PDFが開きます)、研究分野は全然違うけど研究の価値観や研究スタイルやとても近しい分野として、「建築学系と電気電子工学系」、「情報学系と経済経営学系」、 「工業化学系と薬科学系と資源生物学系」、「物理工学系と地球工学系と医学系」がみいだされました(本ページ下図)。

これは、価値ある2つの可能性を示唆していると思います。1つは、既存の学術分野とは異なる研究文化を基にした新しい学術分野のくくりができるのではないか?という可能性。もう一つは、ともすれば目的思考すぎる異分野連携プロジェクトにおいて、目的達成ではなく分野間の相性を第一においた新しい連携プロジェクトができるのではないかという可能性です。これこそが「何がでてくるかわからない」という不連続的なイノベーション創出に本当に寄与するものではないでしょうか(○○の解決にイノベーションが必要、というのは単にイノベーションではなくソリューションなのでは?)

このように、このありそうでなかった知見は、(それを届ける努力を怠らなければ)おそらく多くの研究者にとって有益な情報となるのではないかと考えます。特に、成果主義、商業主義が学術界に蔓延するようになった今日、研究(または研究者者)の評価、というものを様々な学術分野をひとくくりにして一様に基準化することに一石を投じる!ことも(少し)ねらっています。

事実、先に挙げた2012年のアンケート結果では、いわゆる理系では著書より論文のほうを業績として評価する人が圧倒的に多いですが(著書より論文を評価するが85%ぐらい。論文より著書はわずか2%程度)。しかし、人文社会系ではみごとに逆。論文より著書を評価は34%(なお著書より論文は21%。同等に評価するも44%ぐらい)という結果を得ました(下図)。

この結果は端的に、業績としての論文のみに着目することの危険性を示したものでしょう。いわゆる理系からは「は?本なんて査読がないでしょ?それがなぜ業績なの?」と感じるかもしれません。しかし、査読がある書籍だってありますし、そもそも書籍が業績として評価されるその理由というは、一言では説明できない人文系特有の文化的な背景があるのです。それを理解することなしに(理解しようとせずに)、表層的な感覚だけで評価軸設定や関連政策を進めるのは、非常に危険だと思います。

今、相互理解不全を解消しておかないと、正しく言うなら、学術界をあげて全学術分野が協力して解消させる努力(動き)をしないと、未来の学者たちに申し訳ないように思うのです。

手 法

● WEBアンケート
● 学術分野の79分類は、JSPS「系・分野・文科・細目」に準じた(PDFが開きます)
● 各分野の回答達成数は、各分野における科研費の採択数の3倍を当分野の全研究者人口とし、その20%とした *
● アンケート項目は、2012年の試行的調査結果を基に、学問論、科学哲学、組織心理学等の知見を踏まえて独自に作成

  (学術的研究のためというより現場感覚に即した情報を得ることにこだわった)
● 参考文献:

 Allen F. Repko, Interdisciplinary Research: Process and Theory, 2nd ed.,
 Robert S. Frodeman, ed. The Oxford Handbook of Interdisciplinarity. Oxford: Oxford University Press, 2010.
Texas Center for Digital Knowledge, 2010 CSID Interdisciplinary Initiatives Proposal due Feb.15

 

* 我が国における各分野の研究者人口ほど、入手困難なものはないです。大抵の研究者は複数の学会に所属していますので、学会ごとの整理は不可でしょう。ゆえに、ここは研究者にとって切っても切れないない「科研費」を使って算出することにしました。科研費の採択率はだいたい3倍なので、2014年の採択者x3倍をその分野の研究者人口としよう、という判断です。大胆であることはみとめますが、こうでもしないと先に進めませんでした。

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想定される結果と効果

●「え?この分野ではこういう考え方なの??」という知見を研究者らに提供することで、分野間の相互理解促進に貢献します。これは、昨今の人文系社会系再考といった現状にたいする縁の下からの抵抗とも言えます。

 

  • 「研究分野の分類では全然違うけど、研究文化でくくってみるとこの分野とこんな分野が近いのかあ」といった、新たな研究分野の定義を生み出すことにつながります。新しい価値創造には、金で釣るような現状のトップダウン的政策より、このような相性のいいもの同士の出会いから始まるのが本質でしょう。
  • 現場感覚を重視した研究者の実態調査は、文科省が実施する大学改革や学術・科学技術政策に極めて有益なデータを提供することになります。学術界を一つの塊として理解し、一律に評価制度を適用するという危険を回避することにつながります。
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成果報告

● WEB
● 書籍または小冊子発刊:研究者向け、政策者向けの二種類を作成したい(予定)
● 座談会、またはシンポジウム開催:本企画の趣旨に賛同し協力してくれた研究者に集合いただきざっくばらんな座談会など開催したい(予定)

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体 制

● 科研費萌芽「異分野融合研究の研究」H24終了(代表:宮野公樹)の成果をもとに実施
● 2012年に試行調査を京大限定にて実施。その後、アンケート項目の改良をおこない2014年10月に分野が異なる11人の研究者を集めてヒアリングを実施し修正して完成
● 協力者:

梅山佐和(京都大学学際融合教育研究推進センター学融合フェロー、同志社大学非常勤講師)、鈴木 望(京大医学研究科院生)
● 協力組織: 京都大学学際融合教育研究推進センター(代表者宮野の所属機関)

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